ポーカーフェイス

 かわいがっていた猫が、行方しれずになりました。一週間が経ち、ご近所からの情報収集の結果、どうやらすでにこの世にはいない模様。

 6年前、彼との出会いは突然でした。

 夏の日の午後。お寺の倉庫から子猫の鳴き声が聞こえます。いつのまにか野良猫が住み着き、子どもを出産したようです。

 親猫一匹、子猫4匹、計5匹。数ヶ月前に飼い猫「タマ」を亡くしていた家族は、全部まとめて面倒見ようと、意欲満々でした。

 しかし、子猫のうち一匹が、どうも元気がありません。兄弟たちと比べても一回り体が小さい。心配していましたが、残念ながら短い命を閉じました。

 残ったのは、虎毛の親猫と、虎毛、茶色の虎毛、三毛の子猫3匹。それぞれ、「トラ」「コトラ」「チャトラ」「ミケ」と安直な名を付け、かわいがっていました。

 兄弟はみなすくすくと育っていきました。

 ある日、兄が居間に飛び込んできました。「子猫が食われた!」

 犯人は発情期の雄猫。雌猫は子どもがいると発情しません。自分の子孫を残すため、子猫を殺して、強引に雌猫を発情させるというわけです。

 自然界では当然のように行われていることなのですが、それでも、目の当たりにするとショックです。

 不幸中の幸いか、子猫たちが雄猫に襲われているのを発見したトラは、コトラを救出することに成功しました。また、そこへいいタイミングで兄が現れたため、雄猫も退散するしかなかったようです。

 チャトラとミケは絶命していましたが、コトラは無傷。

 我々は、コトラを守り通すべく、トラがコトラの元を離れるときは、家の中に入れて保護することにしました。

 トラは頭が良く、コトラがいつもいる場所にいないと、家の中に向かって帰ってきたことを告げます。我々はその声を聞くと、コトラを親元に帰します。猫と人間の協力のもと、不思議な子育てが続きました。

 そのうちに、トラの頭の良さが災い始め、トラは敷地内退去処分となってしまい、コトラだけがお寺に残ることになりました。

 野良同士の戦いに度々傷つき、病院に運ばれることもしばしば。「おまえは深追いしすぎるんだよ」などと会話を交わしながら、6年。 

 コトラがいるのが当たり前の生活でした。家族と同じです。その彼が、とうとうこの世を去ってしまったのです。

 悲しいです。でも、和尚はいつもポーカーフェイス。どんな時でも落ち着いて、冷静に物事を判断しているから、周囲から信頼される。だから、どんなに悲しくてもポーカーフェイス。

 素直に泣いた方が、親しみがわく?

 そうかもしれません。しかし、親しみはわいても、火急の時に信頼されるとは思えません。いつも冷静だからこそ、ここ一番で信頼される。一長一短ありますが、それが私の考えです。

 私はいつもポーカーフェイス。どんな時でもポーカーフェイス。今までも、そして、これからも。

制作・著作 宗教法人正太寺